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「…凄いな」
「麗しの君だけに見せるよ。ボクは君を護るから」
性懲りもなくお得意のウィンクを飛ばしてみせた。
ウィンクを交わしつつ、ウィスプはふと、思い付いた事を訊いてみた。
「弓の修行はいつも此処だけかい?主様のフロアにも設けてあるのに」
そうすれば皆の励みにもなると思った。
………しかし。
「…弓は飽きてしまってね、稀にしかしないんだ。その代わり今は蹴拳を磨いているのさ」
瞬きしたら見過ごしてしまうその一瞬の時だけ、ペガサスの顔に陰りが見えた気がした。
「ペガサス、……、…」
思わず声を掛けようとしたが。
「ん、何だい?」
振り返ったいつもの顔に戻ったペガサスを見て、ウィスプは噤んでしまった。
くすんだ髪が、さらりと揺れた。
ペガサスは癖のある奴だとウィスプは思う。
子供達に弓を見せて見たりと人気だが、
『また、今度ね』
弓を射る姿は決して見せない。
バルログやマンティコアが深く勘ぐろうとすれば、
『そんなにボクに興味があるのかい?光栄な事だが生憎ボクには麗しの彼がいるんだ。すまないね』
あしらわれ去なされる。
友好的かと思えば、皆とは一線引いている………ウィスプにはそこが気になっていた。
―一週間後。
ペガサスにも慣れて、いつものようにスケルトンと一緒にいる昼過ぎの事だった。
「おいウィスプ、スケルトン!」
バルログが大股で近付いてきて、少し苛立ったような声を掛けた。
「…騒々しいな。どうした」
「アイツどこ行きやがった?!」
「アイツ?誰の事かな」
ウィスプが尋ねると、隣にいたマンティコアが宣った。
「あの暴れ馬だ」
―馬。…ペガサスの事だ。
「暴れ馬?…まさかあの、」
「そうだ。………一ヶ月前、大草原で召喚士達と連れモンスター達をたった一人で皆殺しにした暴れ馬………それが今回召喚されたペガサスなのだ!!」
フロアに居る皆の空気が固まった。
皆、半信半疑で恐る恐るこちらに耳を傾けている。
「…それが真実という証拠は?」
ウィスプも勿論違うと信じていた。
ペガサス本来の姿を垣間見ていたから。
だがそれはすぐに打ち砕かれた。
「ヤツの結ってある毛を見ろ。アレは髪の毛ではなく血を浴びた同胞の尻尾だ!!」
緩く結われたくすんだ髪。
…着け髪のようにカモフラージュした、血の付いた尻尾。
しなる腕、弓の技量。
………背筋が凍った。
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