序章

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―――トン! 音がした。 ゆっくりと振り返ると濡れた庭に黒い猫がいた。 “あぁ、また来たのか” 時たま見かける黒い猫がそこに雨に濡れてたたずんでいた。 雨の中じっとこちらをみつめている黒い猫と目を合わせていると不思議なことに胸の熱さがスッと冷めていくようだった。 雨の音しかしない、静かなその空間は心地好いものだった。 どれくらい時間が経ったのだろうか。 ―ニャア―… 凛とした声が響いた。 雨はもう止んでいた。 雨上がりの夕空はオレンジ色の輝きを取り戻し、そっと濡れた庭を照らしていた。 もうそこに黒い猫はいなかった。
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