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「俺もだ。あの人に呼び出されたら嫌な予感しかしないからな…」
その予感は当たった、とウェイラーも渋い表情になった。
「…ウェイはこの後、どう動くんだ?」
「…イノ警視と司法解剖に立ち会う。
事態が特殊だから、アビ教授に解剖してもらうんじゃないか?」
「アビ教授か…」
ミラコーニがそこまで言った時、若い憲兵が彼を呼びに来た。
「リシュー警部! これから付近一帯の遺留品の捜索に入ります」
「わかった、すぐ行こう」
ウェイラーとミラコーニ=リシューはお互いにまた後で、と軽く手を振り、それぞれの持ち場に向かうことになった。
大学病院に着き、イノは解剖を担当するアビに会いに行った。
解剖をする前に、今回の事件が特殊であると伝えたかったのだ。
軽くノックをすると、中から入室を促す声が返ってくる。
イノは静かに扉を押し開いた。
「…どうも、アビ教授」
「これは、イノ警視!」
入ってきた人間がイノとわかると、アビは少々驚いたように言う。
「…イノ警視が扉をノックして入ってくる日が来るなんて」
成長なさいましたね、なんて笑顔で言われては、流石の彼も押し黙るしかない。
しかし黙ったままでは埒が開かないとばかりに、アビは椅子から立ち上がりイノに近寄る。
「…イノ警視が此方へいらした、ということは特殊な例に遭遇なさったと、私はそう解釈致しますが」
「……あぁ、他には頼めない」
「…そうですか。立ち会われるのはイノ警視と?」
「ウェイラー=グライフ。前回もいたあの若造だ」
アビは名前を聞いた後しばらく記憶を探っていたようだが、合点がいったようで軽く頷く。
「彼は将来が期待できますね。貴方に振り回されているだけあります」
「…まぁな、今回の遺体を見て吐かずに耐えられたからな。
警察であれ憲兵であれ、若いのの何人かは仕事にならなかった」
「……そんなに酷い状態、と?」
「…あぁ、酷い」
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