異国籍の死体

4/11
前へ
/15ページ
次へ
「俺もだ。あの人に呼び出されたら嫌な予感しかしないからな…」  その予感は当たった、とウェイラーも渋い表情になった。 「…ウェイはこの後、どう動くんだ?」 「…イノ警視と司法解剖に立ち会う。  事態が特殊だから、アビ教授に解剖してもらうんじゃないか?」 「アビ教授か…」  ミラコーニがそこまで言った時、若い憲兵が彼を呼びに来た。 「リシュー警部! これから付近一帯の遺留品の捜索に入ります」 「わかった、すぐ行こう」  ウェイラーとミラコーニ=リシューはお互いにまた後で、と軽く手を振り、それぞれの持ち場に向かうことになった。  大学病院に着き、イノは解剖を担当するアビに会いに行った。  解剖をする前に、今回の事件が特殊であると伝えたかったのだ。  軽くノックをすると、中から入室を促す声が返ってくる。  イノは静かに扉を押し開いた。 「…どうも、アビ教授」 「これは、イノ警視!」  入ってきた人間がイノとわかると、アビは少々驚いたように言う。 「…イノ警視が扉をノックして入ってくる日が来るなんて」  成長なさいましたね、なんて笑顔で言われては、流石の彼も押し黙るしかない。  しかし黙ったままでは埒が開かないとばかりに、アビは椅子から立ち上がりイノに近寄る。 「…イノ警視が此方へいらした、ということは特殊な例に遭遇なさったと、私はそう解釈致しますが」 「……あぁ、他には頼めない」 「…そうですか。立ち会われるのはイノ警視と?」 「ウェイラー=グライフ。前回もいたあの若造だ」  アビは名前を聞いた後しばらく記憶を探っていたようだが、合点がいったようで軽く頷く。 「彼は将来が期待できますね。貴方に振り回されているだけあります」 「…まぁな、今回の遺体を見て吐かずに耐えられたからな。  警察であれ憲兵であれ、若いのの何人かは仕事にならなかった」 「……そんなに酷い状態、と?」 「…あぁ、酷い」
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加