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「被害者の身元は? まだお分かりになってはおりませんか?」
「………」
何やら複雑そうな表情になったイノに、アビは小首を傾げた。
イノはイノで、なんて話したらいいものかと頭を悩ませている。
数分程度の沈黙が場を支配したが、イノの携帯電話が振動したことであっさりと崩壊した。
イノは携帯電話で二言三言話すと、アビに準備するよう頼んだ。
「百聞は一見に如かず、というやつだ。詳しい事は解剖中に」
「わかりました」
それを伝えるとイノは部屋を出て、大学病院の駐車場に向かった。
そこでウェイラーを待つ手筈になっていたからだ。
ウェイラーは程無くして駐車場へ入って来た。
イノの姿を見て、慌てたように走ってくる。
「…イノ! もしかしてアンタ、相当待ってた!?」
「いや、大丈夫だ。今しがた来たばかりだ」
「…ならいいけど」
ウェイラーの呟きを聞くか聞かないかの内に、イノはさっさと解剖室へと歩き出す。
解剖室の場所を知らないウェイラーは慌てて後を追った。
解剖室へ入ると、台の上には既に遺体が乗せられていた。
遺体の上にはまだシートがかけてある。
術衣で台の横に立つアビに、二人は挨拶をした。
「今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ」
アビは穏やかに応えた。
そして遺体に向き直ると、シートに手をかける。
ウェイラーが身を固くしたことにイノは気が付いたようだが、黙っている事にしたらしく反応は示さなかった。
ばさり、と遺体を覆い隠していたシートは取り払われた。
その遺体を前にして、アビが言う。
「…先程、軽く検死の方を致しましたが、イノ警視が言い淀まれた理由がわかりました。
……このご遺体、お一人の方じゃありませんね。少なくとも7人…」
「………」
「……7人…?」
沈黙するイノ、戸惑うウェイラー。
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