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イノを言われた大学の前で下ろし、ウェイラーは古巣である警察署へ向かった。
新人から警部補をここで過ごした。警部昇進を期に、イノにパリ市警へと引き抜かれたのはまだ最近の話だ。
ミラコーニも時を同じくして警部へ昇進をしたが、都会が苦手なミラコーニはこの片田舎に留まることにしたのだった。
(…お陰で、なんて言い方は変だが、ミラがいてくれるから古巣にも戻れる気がするな)
そうでなければ、とても協力を請うなんて出来ないだろう。
あの閉鎖的な環境で、栄転をしたウェイラーが良く思われていないのは必至だったからだ。
そもそも、あの警察署ではイノ自体も良く思われていない。
都会からやってきたお偉いさんが、好き勝手指示を出す上、部下を勝手に連れ去るような真似をした、と専らの評判だ。
(……あながち、間違っちゃいないから反論もできないしな)
突然出向くときつい視線が刺さってくる予感がしたので、ウェイラーはミラコーニに予め連絡を入れておくことにした。
胴体以外の部位ならば、指紋や網膜パターンで身元を割り出せるかもしれない。
その為のデータベースが彼には必要なのだ。
ウェイラーから連絡を受け、ミラコーニは署長室に向かう。
この署でウェイラーの栄転に理解があるのは、ミラコーニ以外に彼しかいないようなものだ。
「…例の遺体の件で身元判明の為にパリ市警のウェイラー=グライフ警部が協力を請いたいとの事です。
指紋、網膜パターンをデータベースと照合を求めています」
「そうか、わかった。ではリシュー警部はグライフ警部のサポートに回ってくれ。
また、捜査の進行状況は逐一報告するように」
「はい、わかりました」
二人は極めて形式ばった会話をした。
あくまで建前で、こんなやりとりをしてみせなければウェイラーと満足に協力できないのが、二人としては不満ではあった。
「…我が署の協力を得られたことを伝えたら良かろう」
「はい、そうします」
失礼しました、と言ってミラコーニは署長室を退室した。
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