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「………」
古巣である警察署に着き、ウェイラーは眉間にシワを寄せながら車を降りた。
ごく一部に大層面倒な人間がいるのだが、よりにもよって入口で会うなんて幸先が悪い。
ウェイラーは顔には出さずに心の中でため息をついた。
このタイミング、待ち構えていたのではないかと疑いたくなる。
ウェイラーはあくまで穏便にスルーしようと、軽く会釈をして通りすぎた。
その背中へ嘲笑うような声がかかる。
「パリ市警はクビになったのかい?」
「こんな辺鄙な村までご苦労様だな」
「……」
ウェイラーは立ち止まると、くるりと振り返ってにんまりと笑ってみせた。
彼を嘲笑っていた数人はぎくり、と身体を強張らせている。
「…そーなんだよ、この事件で成果を出さないと席が無くなるのさ」
頑張れはあんたらにもチャンスがあるかもね、と笑顔で言うと、さっさと歩いて行った。
残された人間は嫌味が通じなかったことに歯噛みをするものの、今となっては負け犬の遠吠え、見苦しいだけである。
面倒な人間をかわして、ウェイラーは署長室へ挨拶に向かう。
これは二言、三言程度で終わった。
特に必要は無いが、世の中には形式が重視されることもあるのだ。
彼らはそれを熟知している。
その後、指定されたパソコンの置かれている席についた。
今回の不可解な事件の捜査のため、特例でその周囲は彼専用とばかりに配置が普段と変えられているらしい。
そしてパーティションで区切られているのはありがたい事だった。
不躾な視線を気にしなくていい。
彼は早速椅子に座ると、パソコン相手に向かい合った。
渡された解剖所見や諸々の資料をばさり、と机に放り忙しなくキーボードを打つ。
後は根気比べだ。
入力したデータに対し、パソコンのデータベースが『不一致』、という文字を叩き出す度に彼は思った。
長い戦いになる。
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