ご主人様との日常

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 ――僕の朝は、いつもご主人様を起こすところから始まる。これがまた、一苦労なのだ。  一歩一歩踏み出す度に足が軽く沈むような感じがする赤い絨毯の上を進みながら、僕は一つため息を吐く。  豪奢な屋敷の廊下には、有名な絵画やアンティークが並んでいる。高い天井にはきらびやかなシャンデリア。  そしてこの廊下の一番奥に、僕の目的地であるご主人様の部屋がある。  その部屋は他の部屋とは違い、細かな模様が彫られた重厚な扉で仕切られている。その扉の前に立ち、僕は一度深呼吸をしてから二回扉を叩いた。  決まり事だからそうしただけで、どうせご主人様は気づかないけれど。案の定応答はない。構わず、僕はその扉を開けた。  無駄に広い室内で最初に目に飛び込んでくるのは、真紅の布で周囲を囲まれた天蓋ベッド。その向こうにはタンスや鏡台、ソファーやテーブルがあって、どれも無駄に金がかかっていそうな凝ったデザインをしている。そして基調になる色は赤や白が多く、妙に乙女っぽい。  そこはご主人様の趣味。僕がとやかく言うことでもないけど。
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