TOBI-ZARU

プロローグ

『Information to all passengers. Please observe no boarding…』

航空会社のアナウンスをＢＧＭに、紫煙がゆるりと漂う。

薄いストライプの入った紺のスーツは、やたら明るい喫煙所の中、
背の低い椅子に浅く腰掛けていた。
俯いたまま微動だにせず、ゆっくりと舞う細い煙だけが、時が止まっていないことを教えてくれる。

広い空港ターミナル内の隅に追いやられたその箱の中に、この男一人だけ。
煙草を無造作に持つ手。その手の甲に、古い火傷の痕がある。
「あ」
ゆっくりと頭をもたげ、
「禁煙中だった・・・」
再びＢＧＭが木霊する。
この後、久々の大仕事が彼を待っていた。
結局残りの煙草を、静かに味わう。
遠くを見つめるように目を細め、静かに微笑んだ。