東雲

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●過去 白石家という裕福で名門の武家の当主の男が絶世の美女と謳われた女に一目惚れし、女の正体も調べぬまま金と権力で女を我が物にした。 そして、女が妊娠した頃に女の正体が妖狐と人間の間に生まれた半妖であった事を知る その事実に男の愛は冷めて、半妖である為に女の待遇も劣悪なものへと変わるが、女は既に妖の世界から縁を切っており助けも他に行く宛も無いままに出産まで耐え、男児を産んだ直後に悠翔という名前だけをつけて他界。 悠翔という名は閉じ込められて弱って死んでいく自分とは違い自由な世界へ羽ばたいて欲しいという母の切なる想いからであった。 男も流石に実の子を捨てる事は出来ずに、母の正体は隠して普通の人の子として育てる事にする。 育てると言っても世話は殆ど家の者に任せきりでろくに会話もせず、幼い悠翔は寂しい想いをしていた。 そんな悠翔が10歳になる頃、父は後妻を設けたが、彼女は半妖であった母親譲りの不思議な力に目覚めつつある悠翔を不気味に想い、屋敷の端のように追いやるようになった 妻のやりように父は何も言わず、そんな父との父子の愛を確かめようと悠翔は家出をしたが、父が迎えにくる事は無い 自分から家を出てたので、帰る事も出来ずに一人途方にくれていると、早朝の東雲と呼ばれる時間に一人の遊女が話しかけてきた。 少し会話をすると、悠翔に同情した遊女は店に連れて帰って住まわせる事にした 白石の名を捨てて母から貰った悠翔という名前だけ残し、新たに始めた岡場所暮らしは今までの裕福な家の暮らしとは違ったが、店の者から愛されて幸せな暮らしであった。 店の遊女達から舞やら三味線やらを教えてもらいつつ時が流れ、悠翔が蔭間として商売を始める14歳になったが店は悠翔を店に出す事は無かった それは悠翔は金で売られて来た訳ではないのだから商売をする必要はないとしたからだが、実の所は店の女達の『こんな女でも立派に子供を育てられると証明してやりたい』という想いと、『自由の無い自分達と違いこの商売に捕らわれずに自由に生きて欲しい』という偶然にも母と同じ想いからであった
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