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「……あ、り、が、と、う」
「うん、どういたしまして」
少女の唇の動きをじっと見つめながら、少女が放つ、音のない言葉を靖は理解した。
靖の笑顔に少女は慌てて手の甲で涙を拭うと、にこりと笑った。
靖は徐に少女の頭を優しく撫でた。
少女はまた笑顔を靖に見せると、深々と頭を下げた。
「マリア様、好きなんだね?」
少女はペンダントを握り締めながら、こくんと頷いた。
風に舞う銀杏の黄色い葉が、二人の間をすり抜けて行った。
「今度の日曜日、ウチの学院に来ないか?」
靖は腰を下ろして、少女の瞳に聞いた。
「…………」
「オジサンはこういう者だ。日曜日に特別講義がある。聖母マリアについての発表があるんだよ」
靖は名刺をポケットから取り出して、少女に手渡した。
「……マ、リ、ア」
「あぁ、そうだよ。不思議なお話しだ。どうだ、来るかい? 朝十時からだ。特別に招待するよ」
少女の音のない声を、靖はしっかり聞き入れた。
そして、少女は笑顔で頷いた。
「よし! じゃあ約束だ」
靖は小指を少女の顔の前で立てると、お互い指切りをした。
偶然ばったり出会った二人。
偶然にも、お互い聖母マリアを愛していた。
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