13人が本棚に入れています
本棚に追加
発表会の日曜日の朝、靖は大学院の正門の前で少女を待っていた。
銀杏の黄色い葉が、穏やかな風に乗って、ひらりと舞い落ちていた。
徐に空を仰ぐ靖。
透き通るような高い空に向かって、その透明な空気を深く吸い込んだ。
ーーー やっぱり、秋は気持ちがいい……、この清々しさは他の季節にはない ーーー
今度は深く息を吐きながら、靖は空に言葉を投げた。
ふと、顔を戻すと、交差点で手を振る少女の姿を靖は見つけた。
靖も大きく片手を振る。
少女はこの季節には似つかない水色のダウンジャケットを羽織り、濃紺のスカートに黒のブーツを履いていた。
余程ブルーが好きに違いないと靖は笑みを浮かべていた。
「おはよう!」
「お、は、よ、う、ご、ざ、い、ま、す」
ゆっくりと唇を動かしながら、音のない言葉で挨拶をする少女。
靖に向かって深く頭を下げた。
少女の胸元で、マリアのペンダントが揺れている。
「じゃあ、行こう! 特等席を用意したよ」
「と、く、と、う、?」
「あぁ、一番前の席だよ」
少女は、ぺこっと頭を下げると靖の腕にしがみついた。
妙に照れ臭い靖。
顔を赤らめながら講義室へと、歩いた。
.
最初のコメントを投稿しよう!