章前

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今は前線指揮所となっている領城、クトメス城はそもそもの起こりが東方民族の侵攻を阻止するために造られた城街です。 ですから、尖塔や造園などはなく代わりに水を流した堀や返しがついた高い城壁、堅牢な門扉が備えられていましたし、街の造りも5つの突端を形作る放射状になっていました。 //*// 「お帰りなさいませ、閣下」 だらしのない、くたびれた……そう、"年季の入った"と言った方が良いのでしょう。卿の兵団の一切を預かる軍師シュトライゼン殿はそんな野戦外套を羽織って出迎えに参上していました。 無礼極まりないと、多くの臣従が……優しいバニン殿も眉をしかめる装束です。 しかし、軍師殿も卿もまるで問題ないとあえてそういった目を無視していました。私にはそう見えました。 それが、まるで何十年も前から、幼心の頃から肩を並べてきた学友のようで、とてもうらやましく思ったのを覚えています。 「いかがでしたか?」 「目には何も見えなかったよ。だが、小鳥のさえずりも鹿の足跡も、雪兎の糞も無かった」 はっ、と気がついたのは卿が仰ったこの一言でした。私はあの静けさをしんとした雪原の雰囲気だと思っていたのです。 東方民族は竜を使います。その存在感たるや小動物は匂いを嗅いだだけで姿を隠してしまうほどです。 つまりは、先ほどまでいたあの雪原のさきにはすでに敵が斥候を出していたかもしれないのです。 「伝令に軍議を開くよう言付けておいたはずですが、諸侯は集まっておられますかな?」 バニン殿は言外に中へ入れろと言いました。私はと言えば、己の不明を恥じいって立ち尽くし、卿が立ち話を続けていたことも気がつきませんでした。 「すでに手配しました。半刻後には始めたく思います」
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