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「まあまあ、大分冷えたのではありませんか?」
私にあてがわれた部屋で待っていたのは、学友のライラでした。今は私の個人的な副官という肩書きを与えていました。
でなければ、女が陣中に入ることは出来ないのです。
私も兵団長の肩書きと子爵の爵位を与えられていました。
私の供回りは彼女ともう一人、じいやを家令として連れてきていました。
「卿の供回りだったのよ?寒く感じるわけはないじゃない」
ライラは「あら、そうでしたか」と、笑いました。
ライラはそう、いつも卿の話題になると、私をからかうのです。
不意に暖かな毛布が肩を包むように掛けられました。
「とはいえ、外からお戻りになったのですから。暖めませんと」
「じいや……。ええ、ありがとう」
じいは満足げに頷くと、奥に戻って行きました。
「そうですよ。まだこの後には娘子軍の練兵もあるのですから、お体を壊しては大変です」
ライラは言いながらクローゼットから礼服を取り出しました。
「ケインズさんが今お茶を入れてくださってますから、その間に着替えをすましましょう」
「ええ、お願い」
私はじいの淹れ始めたお茶の香りに、恐らくは煩わしくなるだろう軍議の事を一時忘れることにしました。
//*//
「ユージーン!ユージーン・アイルオ卿!」
豪快な呼び声。廊下に響くその声は、厚い二重扉をも超えて私の耳にも届きました。
「ねぇ、もしかしてあの声は」
「ええ、ロブ侯爵ですよ。先頃到着されて、卿を待っていたのですよ」
ライラが手袋をはめてくれる動作ももどかしく、私は急いで廊下に出ました。
そこには、熊髭の立派な大男と並んですらりとした卿がいました。
「フルネームで呼ばずとも……いや、それ以前に従卒に呼びに来させればいいでしょう」
卿は困った顔をしていました。
卿と侯爵の関係は王都では有名でした。陸軍士官学校からの同期で、大の親友。二人が残した武勇伝は数多くあります。
「従卒なら、撒いてきた。今頃は城下の街で俺を探していることだろうよ!」
侯爵はかか、と笑うと卿の背中を叩きました。
王国中どこを探しても、そんな事ができる人などいないと思っていました。
開いた口がふさがらないとはこの事です。
そう、親王である卿にそんな事をすれば斬首となってもおかしくありません。
「おお?あれが噂の娘子軍か?!」
侯爵が私を指差したのはその時でした。
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