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ロブ侯爵は私を指差して興味深げに問いました。 「セシリー・ル・ドナヒュー子爵です。娘子軍三百人の指揮を任せています。セシリー爵、こちらは私の旧友のロブ侯。今回は」 「機甲人(アーマー・ブレード)を六騎率いて参陣した」 ロブ侯爵殿は胸をはって熊髭の間から獰猛な白い歯を見せて自らの軍勢を名乗りました。 「お初におめもじします。エンザルはダム・ドナヒュー伯の末子、セシリー・ル・ドナヒュー子爵にあります」 「歳は」 「16になります」 「敵を見たことは」 「ありません」 「初陣は」 「この戦いが」 「乙女か」 「…………少なくとも私は」 卿は黙ってやりとりを聞いていました。 「どう使うつもりだ?」 ロブ侯に尋ねられて、卿は首を振りました。 「軍師殿の腹の中は読めないさ」 「ふっ、そうか?己にはおおよそ察しがつくがな……」 「慰安婦でないことは確かですよ」 「であれば、規律維持を徹底することだな」 「厳にします」 卿の言葉に頷いて、ロブ侯爵は戦套を翻しあてがわれた居室に戻っていきました。 まるで私たち娘子軍を役立たずの集団のように仰ったロブ侯爵の印象は、噂から抱いていたものとはまるで逆になってしまっていました。 ええ、そうです。腹が立ちました。 確かに私の娘子軍の大半はかつて淫売をやっていましたし、残りは農民や卑しい部落の娘たちです。 でも、皆善い娘たちです。帝国の危機に際してどの男たちよりも勇敢に戦う戦士です。 私は、卿に一礼すると肩を怒らせて居室に戻りました。 怒りで顔が上気しているのが、はっきり分かりました。 クラーラ百人長に行き会わなければ、居室の扉を思い切り押し開けたに違いありません。 クラーラ百人長を見つけた途端、熱が引きました。 指揮官として、努めて冷静に振る舞うよう自分で律していたのです。 「セシリー様、練兵準備調いました」 「いつも通りになさい。軍議が終わり次第、閲兵します」 「はっ」クラーラ百人長は短く応えると敬礼して戻っていきました。 私は、軍議でまたロブ侯爵と顔を会わせる事になることを思い出して溜め息がこぼれました。
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