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郁の言っていた桜の木の下に、俺はいる。
潤「郁の言っていた通りだな」
恐ろしいほどに咲く、桜。
まだ冬であり、咲くには早いというのに。
他のどの木々もまだ眠っているというのに。
これだけが咲いていた。
幹にそっと触れる。
何故だか温もりを感じた気がした。
潤「郁は知っていたのか?
それとも、咲いて欲しいと願っていたのか?」
問いかけても返ってこない問いをするのには、慣れた。
胸元にある石をぎゅっと握りしめる。
あの日、郁が消える代わりに現れた石。
これが何なのか、誰に聞いても分からなかった。
兄貴が消えた跡に、呉羽も持っていたこれは、大事に小さな鳥籠の様なものに入れて首から下げている。
捨てるのは、俺の心が許さなかった。
呉「潤、此処にいたのですか」
潤「呉羽…」
奥の方から走って来る姿を見やる。
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