第16章

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潤SIDE 呉「また、それを見てるんですか?」 何時の間にか、後ろに呉羽が立っていた。 あれから、半年が過ぎた。 ここは、郁と臣の眠る教会。 オレンジの夕日がステンドグラスを照らし、床が様々な色に淡く染まる。 その中でも、最も人の目を引きつけるのは、薔薇の塔だった。 白い郁の頬がオレンジに染まる。 本当に眠っているようで、今にもその瞳を開けそうだ。 呉「まだ、それに縋りつくのですか?」 初めて、この映像を見て、涙があふれた。 目の前で、郁が笑っていた。 喋っていた。 触れられそうに近いのに、手を伸ばせば、通り抜けてしまう。 それが悲しくて、見たくはなかった。 けれど、此処でしか郁の声を、笑顔を見られない。 だから、あの石が教会に移されてから、何度も1人で足を運び、見続けた。 あの日まで、確かにあった温もり。               
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