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「いやぁ、みっともない姿を見せてしまってすまない」
我に還った陛下はまだ痛むのか、後頭部を押さえ、微笑みながら謝ってくる。
陛下はメイさんの隣の椅子に座っていて、メイさんは目を閉じて眉間にシワを寄せている。
アリアーネさんはカウンターの奥に入っていった。
多分、陛下の分のお茶を取りに行ったんだろう。
「いえいえ、それほど妹さんの事を大事に思っているという事が感じ取れましたよ」
「ははは…この子はたった一人の妹だからね。絶対に失いたくないんだ」
笑いながらも、真剣な顔つきでそう言う。
隣でメイさんが顔を赤く染め陛下と逆の方へ体をずらしている。
こんな事を隣で言われたら照れてしまうだろう。
「母はとっくの昔に亡くなってしまった。そして、3年前までは父がティファニアを治めていたんだが、病気で亡くなってしまってね。残ったのは僕達兄妹だけになったんだ」
そういう事か。
だからこんなにも陛下が若かったのか。
「僕も昔は冒険者としてブレイズの各地を廻っていたんだが、父が亡くなったため、国を治められるのは僕だけになってしまった。だから今こうして王として働いているんだ」
俺が尋ねたかった事を尋ねる必要なく教えてくれる。
「そうだったんですか…」
陛下の過去、それはメイさんの過去でもある。
だから、陛下が悲しい事は、メイさんも悲しいだろう。
俺も含め、三人は暗い顔をする。
「悪いが、メイリーン。ルイン君と二人で話がしたい。部屋で待っていてくれないか?」
と、陛下はメイさんに言った。
「えぇ…分かりましたわ、お兄様」
メイさんは小さな声でそう言うと、椅子から立ち上がり、近くの階段を上がっていった。
上でガタンッと、扉が閉まる音が聞こえたのを聞いて、
「君は、旅人なんだね?」
唐突に、そう尋ねられたため、目を見開く。
「なんで、分かるんですか?」
「見たかぎり、ギルドには所属していないようだからね」
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