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私たちが近づいていくと、どうやらサーナは目を閉じながら夢中で歌っているようだ。
私たちが居ることに気づかず、笑顔で歌い続けている。
「アリスの言うとおり、サーナ歌上手だね」
ボリスが私の耳元に口を寄せてきて囁く。
「うん……本当に上手…………」
サーナの歌は、聴く人を笑顔にしてしまうのだろうか。
なんだか笑顔になってくる。
ただし……
「ボ・リ・ス……? サーナに変なこと教えたでしょ!! 音楽とかはいいとして、この歌詞ってあからさまに……」
小さい声でボリスを怒る。
その歌詞というのが……
ウサギに連れられて
辿り着いたのは不思議な不思議な国
二匹のウサギに女王様
迷子の騎士に病気味 夢魔
無口な時計屋おじさんオーナー
マフィアな帽子屋、双子の門番
そして恋した気まぐれネコ
毎日が輝いていて
あなたの優しさに惹かれていった
口づけるたび幸せが溢れ出しそうで
・
・
・
・
「うん。俺が教えた」
「…………」
呆れて、反論の言葉も出てこない。
「あ、いや、悪い。あのさ、悪気とかは全然なくて……サーナが、アリスの昔話をしてほしいって頼むもんだからさ、つい、な? 」
「……まぁ、別に良いんだけどね。たださ、あの歌詞って、どう考えてもサーナは考えられないよね? ……ボリスでしょ? 」
「うん。俺が考えたけど。……あれ。アリスが考えてたのって、あんな感じでしょ? 」
「…………そ、そんなこと……っ!! 」
「あれ。アリス顔真っ赤だよ。……やっぱりそうだったんだ」
「………………」
(ボリスに隠しごとは出来ない……)
密かにため息をつく。
「……穴があったら入りたい」
「あれ。アリス、また穴に入りたいの? アリスがそんなに落下好きなのは、俺知らなかったな」
……この世界の住人に言葉の意味を取り違えられることにももう慣れてしまった。
「いや。そういうことじゃなくて、恥ずかしすぎて、人に見られたくないって事なのよ」
(なんで私が、わざわざ説明してるのかしら)
「ふ~ん……じゃあ、俺は良いんだね♪ 」
「……は? 」
「だって俺、ネコだし」
そうだった……。
この世界で出逢った奴らは何かと私の世界とは違うのだ。
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