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「なんて…命知らずな…っ」
戦慄く乙女のその声に、彼女は
――紺碧の外套を纏い、白銀の長い髪を惜しげもなく風に晒している『敵国の化身』は、瞳を細めて可笑しそうに言った。
「貴女方にはそうなのでしょうね、Fraeulein(お嬢さん)。けれど、私たちにはこれくらい、どうと言う事ではないのよ?」
冷たい大気によく通る彼女の声、クスクスと漏れるその小鳥のさえずりのような笑い声すら、ナイフのような鋭さを持って乙女の胸に刺さっていく。
脚が震える。
握りしめた、拳が震える。
寒さからではなく、
まして恐怖からではけしてなく、
感情(ココロ)が、奮える。
「怖い顔…」
そう眉を顰めながらも口元の笑みを絶やさない彼女に、乙女は胸の高ぶりを増していく。
「誰が…そうさせていると思っているのですか…っ―――!」
――プロイセン!!――
堪らず上げた乙女の叫びにすら、彼女はクスクスと楽しそうに笑うのだ。
力がこもる。
彼女を睨む瞳の端に。
噛みしめる奥歯に。
どうして
どうして
愚かな問いばかりが乙女の脳裏に渦巻いていく。
愚かだと分かっていながらも、それでも乙女は止められなかった。
愚かなその問いを、言葉にして彼女へ投げたいその衝動を。
どうして
どうして?
「どうして…っ!?」
こんな無茶なやり方で、
自分自身まで損なうような危険を冒してまで、
『敵国(ワタクシ)』に剣を突き立てに向かうほど、
「それほど私が憎いのですか!?貴女は!!」
それほどまでにと思い知る心が、悲鳴を上げていると言うのに―――――
「―――憎くは、無いわ」
はた、と、
告げられた彼女の言葉に、乙女は長い睫毛を瞬かせる。
「ただ、早く貴女に逢いたかっただけ…」
その
とても甘美で蠱惑的な響きに、乙女の強張った肩からみるみる力が抜けていき、アメジストの瞳に僅かな光が揺らめいた。
その輝きの奥に透けて見えた乙女の期待に、彼女は虹色の瞳を喜色に染める。
「そう…逢いたかったの、とても…とても……」
「…プロイセ―――」
「貴女を早く苦しめてやりたくて!!」
――オーストリア!!――
心の守りを緩めてしまった愚かしさを、乙女は呪う。
あまりの痛みに、先ほどまでとは種類の違う震えが乙女を襲った。
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