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「貴女の、戸惑う姿がとても見たくて」
うっとりとした表情で彼女は言葉を吐き続ける。
「貴女の、怯える姿がとても見たくて」
その冷たい言葉の刃は奥へ、奥へと凍みていき、乙女の胸の中枢からゆるゆると血潮の温度を奪って行った。
カチカチと合わない歯の根が震えを助長する。
震える唇で、掠れる声で、乙女はただ一言だけ
彼女へ最後の、愚かな問いかけをした。
「わたくしが…キライ…?」
乙女の問いに返される、彼女の応えを待つ一瞬の時が鉛のように纏わりつくような感覚に襲われながら、それでも乙女は、淡い期待を抱かずにはいられなかった。
彼女の、弧を描くその薔薇色の唇が、『Nein』の形に動くのを。
しかし―――――
「そうね……――そうよ、オーストリア。私、アナタの事が――」
――大っ嫌い!――
(………ああ…―――)
いっそ―――と、乙女は祈る。
このまま心ごと全部凍ってしまえばいい。
そうなればもう、何も感じずに傷つくこともなくなるのに、と。
痛みも悲しみも苦しみも
密やかに抱く憧憬に躍らされる事も
甘やかな熱情に焦がされる浅ましい痺れも
何もかも閉じ込めて綺麗なまま永久にできるのに―――
最早この頬を伝う雫の熱さすらも気持ち悪くて
気持ち悪いのに
それでも尚
わたくしを見て咲うアナタをとても
…とても
美しいと思うわたくしの姿はさぞかし滑稽な事でしょう…―――
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