Eine Rose und zwei Schwerter

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  パーン! ――と弾ける音がこだまを鳴らした。 同時に彼女の足元の雪が舞いあがり、笑っていた彼女の表情が途端に引き締まる。 もう一撃銃声が鳴り、彼女が後ろに跳び退るとそれを追うように雪塊が散った。 「無事ですか、オーストリアさん!」 雪を蹴りながら颯爽と現れたのは鹿毛の騎馬。 その背から銃を構えた青年が乙女の名を呼んだ。 微動だにしない乙女の頭上を飛び越え、その姿を敵から隠すように青年が彼女の前に立ちはだかる。 青年の姿を見とめるやいなや、虹色の眼を鋭く光らせた彼女は忌々しそうに舌打ちを零した。 「出たな、女男……っ!」 若草色の外套を纏い、亜麻色の長い髪を結紐で一つに束ねた青年。 彼もまた、国の名を戴くこの二人と同じ命の理の元に存在してる者であり、乙女と血統を同じくする王を据える国――― ――ハンガリー―― 細面でありながら、青年の怒りを燃やすジェードの瞳は獣のような威圧を放ち、それを正面からぶつけられた彼女はブルリと体を震わせそして 鋭い笑みを浮かべた。 「────っ…!」 その笑みに縛られ、青年の背に寒気が走る。 乙女に向けていたそれとは違う種類の彼女の笑み──血の温度が増したのか紅が強く輝く瞳を大きくして、口角を吊り上げ歯を見せ笑うその表情(かお)は、まるで獲物を見つけた銀狼を思わせた。 威押されるかと奥歯を噛み、青年はドラグーン・マスケット銃の照準を敵国の化身たる彼女へと合わせる。 「この場は退きます、オーストリアさん!早く馬へ!」 視線はけして彼女から逸らさず、青年は背後の乙女にそう促した。 しかし、乙女からの返答は無く、そればかりか動こうとする気配が微塵も感じられない。 (……―――チッ!) 振り向きたいが、今、一瞬でも彼女から目を離してしまえば隙を与える事になると、青年はそれを堪えてもう一度呼んだ。 「オーストリアさんっ!!」 それでも、やはり乙女は動かない。 次第に焦りが濃くなる青年の姿を見て、彼女はまた、いや、今度はアハ…と声を出してあからさまに笑っていた。 (…あの女ぁ…っ!) 沸き上がる怒りのままに、青年は再び引金に掛かる指に力を込めた。  
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