母は強し

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 しかも酒瓶等ではなく、樽なのだ。普通、今の様な戦時代ならば、出産祝いと言えば米や野菜といった食料だろう。なのに何故酒?きっとこれは、出産祝いと称した今夜の酒盛り用なのだだろう。と楓は一人考えていた。一人思いを馳せいると、それを遮る様に椿が駆け込んで来た。  「ーーっ!はぁ。お二方、何度も言わせないで下さい、勝手に屋敷に入らないで下さいっ」  椿は部屋の入口の前で仁王立ちになり、般若の様な形相になっている。  「……」  一斉に場の空気が凍り付く。しかし、それを打ち砕くのはやはり楓だった。  「椿。もう良いわよ?来ちゃったのは仕方ないんだし」  クスリと小さく微笑めば、椿が大きく息を吐き出した。  「楓様はお優しすぎです……」  椿は米噛みを押さえ、肩を落とした。  「……そろそろ俺にも話させて欲しいス」  自分は口を挟む間もなく、しかも自分には気付かれずに進んでいく話に鉄心は一人涙を飲んだ。  段々と賑やかに為っていく室内に楓の楽しげな笑い声が響く。  「あはは。本当に皆が集まると賑やかになるね。椿も、もう良いわよ。そろそろ桔梗を連れて庭に出ようと思っていたしね」
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