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民を救うため。
張仁はそのために旗揚げをした。
自分の村が襲われ、黄巾賊の所業を恐怖を惨状を、肌で感じたからこそ立ち上がったのだ。
しかし。
今、張仁は焦燥に駆られていた。
何が正しいのかが分からなくなったのだ。
黄巾賊も元を正せば同じ民。
これは同族殺しではないのか?
何より、自らが殺した一人の賊の頭の、死に際の一言が耳から離れないのだ。
『同じ民の兵が……。
敵を、見誤ってんじゃねぇよ…』
そして、重なるのは先程の将軍。
そして、今の世を築いた漢王朝。
張仁は義勇軍を率い、官軍の野営地から離れる最中、ふと官軍の陣へ振り返る。
そんな筈はないと。
漢王朝が、皇帝陛下が臣民を裏切るような……。
張仁は何かを振り払うように頭を振り、軍を動かした。
今だけは考える事をやめよう。
黄巾賊のせいで民が涙を流している事に変わりはないのだ。
◆◆◆
「黒田軍?」
その名前を聞いたのは、将軍の件から数日がたった頃の事だ。
あのあと直ぐ、あの将軍は別の黄巾賊の軍団に敗れたと風の噂で聞いた。
それは官軍全体の士気を下げ、逆に黄巾賊の士気を大いに上げる結果となった。
そして、それは黄巾賊の更なる増長へと繋がった。
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