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しかし、黄巾賊に敗れたと聞いたのに、何故ここに!?
都へと引き上げたのではなかったのか!?
いや、そんな事を今は考えるべきではない。
場を俯瞰し、状況を見極めろ。
張仁はそう自分に言い聞かせながら冷静を心掛け峡道を見下ろす。
峡道の張仁から見て左。
丸太や岩石で塞き止められ、僅かに人が巻き込まれているのが見える。
その道は村へ続いていた。
但し、ここから村の様子は見えない。
視点を戻す。
峡道の張仁から見て右。
粗末な装備の民兵が怒号と共に攻め立てている。
峡道の張仁から見て中央。
弓矢で射殺された官軍の兵が地面を埋めつくし、将軍は後ろから兵を叱責し民兵と戦わせ、泣き叫ぶ兵を士気が下がると切り殺している。
視線を上げる。
向かい側、同じく数百の民兵。
手には弓を持っている。
そういえば、と振り返る。
ここにいる歩兵も弓と矢筒を持っている。
但し、矢筒に矢は入っていない。
張仁はこの状況、現状を反芻しながら推測を立てた。
何らかの理由で左の村にいた官軍は、道なりに進みこの峡道を通っていた。
全軍が峡道に入った時、退路を断つように後陣目掛けて丸太と岩石を落とし、崖の上に伏していた弓兵達が矢を放ち、銅鑼の音と怒号と共に右手に伏していた兵達が攻めいった。
そして、それらを高みから見物し指揮していたのが――
張仁はフ江まで来た目的を思い出しながら男へと振り返る。
「……貴殿、名は?」
「黒田熊熊だ」
――黒田熊熊!!
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