鳶と孔雀スピンオフ小説02『ヒダリテホウタイ』

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鉛筆で描くのも飽きた頃、ボールペンで下書きをなぞった。下書きをなぞるのも飽きた頃、マジックで色を塗り始めた。 『どうしたらあの子とお話できるだろう?』絵を描きながら無意識に俺は頭の中の俺に問いかけていた。 『きっと自然と話せるよ』そう答えてくれた。 話すきっかけが無いのだから、俺は半ば諦め、その子に思いを伝える事はないのだと、また一人の世界に籠もる事にした。 その方がずっと楽だったから。 しばらく絵に没頭していると、誤って赤のマジックで手を塗ってしまった。 「最悪」 おまけに油性だったのだ。 マジックを投げ飛ばして、絵を描くのをやめた。 次の日学校へ行くと、あの子が同じクラスメートと仲良く話しをしている。俺は横目でその子を見ながら自分の席に座った。 ランドセルの中身を机の中に入れていると、その子が俺の所へスタスタやってきた。 「国母君、おはよう。ねェ、手ケガしてるよ?」 その子はそう言うと俺の左手を指差した。昨日間違えて赤マジックを塗ってしまったその手だった。 「あ、いや…コレは…」 その子は俺にハンカチを渡してくれた。傷でもない、ただマジックで誤って描いた左手の上にそっとハンカチを当て、俺は「ありがとう」とただ一言だけお礼を言った。
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