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鉛筆で描くのも飽きた頃、ボールペンで下書きをなぞった。下書きをなぞるのも飽きた頃、マジックで色を塗り始めた。
『どうしたらあの子とお話できるだろう?』絵を描きながら無意識に俺は頭の中の俺に問いかけていた。
『きっと自然と話せるよ』そう答えてくれた。
話すきっかけが無いのだから、俺は半ば諦め、その子に思いを伝える事はないのだと、また一人の世界に籠もる事にした。
その方がずっと楽だったから。
しばらく絵に没頭していると、誤って赤のマジックで手を塗ってしまった。
「最悪」
おまけに油性だったのだ。
マジックを投げ飛ばして、絵を描くのをやめた。
次の日学校へ行くと、あの子が同じクラスメートと仲良く話しをしている。俺は横目でその子を見ながら自分の席に座った。
ランドセルの中身を机の中に入れていると、その子が俺の所へスタスタやってきた。
「国母君、おはよう。ねェ、手ケガしてるよ?」
その子はそう言うと俺の左手を指差した。昨日間違えて赤マジックを塗ってしまったその手だった。
「あ、いや…コレは…」
その子は俺にハンカチを渡してくれた。傷でもない、ただマジックで誤って描いた左手の上にそっとハンカチを当て、俺は「ありがとう」とただ一言だけお礼を言った。
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