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ズキン、ズキン。
痛む胸を押さえて、必死に走る。
行く当ては無い。
けれど、一刻も早く、あの部屋から逃げ出したかった。
―――――ポツ、
不意に水滴が顔に当たり、走っていた足を止め、空を仰いだ。
「………雨、」
何処か呆然と降り頻る雨を眺める。
今なら泣いても気付かれない。
このまま雨に涙を流してしまおう。
もう二度と、涙なんか見せない為に。
この想い諸共(モロトモ)、雨に流して消してしまおう。
ピンポーン、
『…はい、どちら様ですか?』
聞き慣れた声に途綺は安堵する。
「友斗(ユウト)? 僕だけど…」
『…途綺? ちょっと待ってろ、今出る』
待たされる事、数秒。
現れたのは途綺の友達で、この家の住人の東友斗(アズマ ユウト)で。
途綺の姿を見た友斗は目を見開く。
予想通りの反応に途綺は苦笑いを浮かべる。
「と…途綺!? どうしたんだよ、ずぶ濡れで…い、いや、まず先に中に入れよ」
「ごめん。…ありがと」
友斗に促されるまま、途綺は友斗の家の中に入った。
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