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気が付けば、誰も彼もがびしょ濡れである。こんな騒動を起こして置きながら、当のアントニアは何ともあっけらかんとしていた。
そんな目に遭いながらも、ブランディス伯爵夫人達は屈託なく笑うアントニアの姿に不思議と怒る気にはなれなかった。
これも『人を指に巻く』魅力の持ち主、アントニアが相手だからこそなのかも知れない。
騒動も一段落し、アントニアはようやく自室へと戻る。アントニアの部屋は、シェーブルン離宮の左翼棟にあり、その内の五部屋ばかりが彼女の部屋として与えられていた。
「お姉様、アントニアただ今戻りました」
先程までの無邪気さとは打って変わり、アントニアは淑やかに同室に住まう姉マリア=カロリーナへ挨拶を済ませる。
カロリーナは、アントニアとは三つ違いのすぐ上の姉で、母テレジア譲りの美少女だ。そんなカロリーナとアントニアは、幼い頃より同じ部屋で一緒に養育され、兄妹の中でもことのほか仲のよい姉妹だった。
「アントニア…貴女はまた、我が儘を言って、みんなを困らせていたのでしょう?」
戻りの遅い妹に対し、カロリーナは少々の嫌味を口にする。
「ち、違いますわ!お姉様…」
──と、言ってはみたものの、この時間の授業を受け持つブランディス伯爵夫人がいない。無論、アントニアのイタズラにより衣服を濡らされ、着替えの最中なのは言うまでもない。
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