≪政略の為の婚約≫

3/5
前へ
/25ページ
次へ
 メルシー伯爵も粘り強く説得を試みるが、交渉は長引くばかりで進展をみせない。悪戯に歳月だけが費やされて行く。 「全く困ったものだ。互いの国の利益を理解していながら、王太子夫妻は感情的に今回の婚儀を拒んでいる…」  メルシー伯爵も、頑なな態度の王太子夫妻に頭を悩ませるばかりであった。  そんな婚約交渉も、二年の月日を経て事態は急転する。  一七六五年十二月二十日にフェルディナンが、さらに一七六七年三月十三日には妻のマリー=ジョゼフが亡くなる。結婚を反対していた二人が立て続けに亡くなった事により、結婚反対派が完全に一掃されたのだ。  こうして、オーギュストはフランス王太子となり、交渉が本格的に進められる事となった。  だが、ここでまたしても問題が起こる。  一七六七年十月十五日、今度はナポリ王と婚約していたカロリーナのすぐ上の姉、マリア=ヨーゼファが天然痘の為に亡くなってしまう。テレジアはこれに対処する為、カロリーナを代わりにナポリ王の婚約者に定めたのだ。  これにより、オーギュストの婚約者にはアントニアが繰り上がる事が決まった。偶然の悪戯か、はたまた歴史の必然なのか、彼女にとって思い掛けない縁談が舞い込む。  大好きな姉との別れを悲しむ間もなく、アントニアはフランスへと嫁ぐ準備に取り掛からねばならなくなった。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加