≪政略の為の婚約≫

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「アントニア、よく聞くのです。貴女はフランスへと嫁ぐ為、これから様々な知識や教養を身に付けねばなりません」 「わたくしが、フランスへ…」  この時、アントニアはまだ十一歳の幼い少女である。そんな娘を政略の為とは言え、元は敵対していた国へと嫁がせねばならない。  まして、アントニアは父親譲りの享楽的な性格の持ち主である。そんな彼女が、果たして素直に勉学に励むのか、テレジアはそれが心配でならなかった。  とにかく、アントニアにはフランス語を早急に修得して貰う為、オルレアン司教ヴェルモン神父を新たな家庭教師として招き、彼の下で本格的にフランス語を学ぶ事と相成った。  元々、語学の分野は得意だったアントニア、フランス語も着実に自らのものとし、めきめきと上達して行く。  その反面、自分がつまらないと判断した授業に関しては、アントニアは相変わらずそれを回避し、一切向き合おうとはしなかった。彼女のそうした悪癖は、ヴェルモン神父を早々に失望させ、彼はこれらを危惧し、忠告として駐仏大使のメルシー伯爵へ手紙を書き送っている。  勿論、末娘の事にテレジアも心を痛めていた。 「あの子の軽薄さが、いずれ、あの子自身を滅ぼす事にならねばよいが…」  動き始めた結婚交渉に不安を感じつつも、その日を迎える為、確実に時は過ぎて行く──  一七六九年を迎え、婚約者同士の肖像画が交換される事になった。
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