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セーヌ河の流れを望み、シテ島西側に位置する建物、コンシェルジュリー牢獄──
投獄された後は必ず死刑が宣告される、別名「死の牢獄」「ギロチン控えの間」と呼ばれ、多くの囚人達に恐れられた。
そのコンシェルジュリー牢獄の一室に、囚人第二八○号と呼ばれる女囚がいる。収監されたのは、ほんの二ヶ月半ほど前の事だ。
「マダム、今朝のお食事はいかが致しましょうか?」
やや疲れた様子の女囚を気遣いつつ、ロザリーが尋ねる。
「もういいのです。全ては終わったのですから…」
そう言って、何とか自身を落ち着かせると、女囚の目から自然と涙がこぼれ落ちた。実は、昨日の夜遅く、三日にまたいで行われた彼女の裁判が結審した。
判決は死刑、コンシェルジュリーに収監された者が辿る運命には誰も抗えない。女囚もまた、同様であった。彼女にとって、長く続いた係争がようやく決着した。当然、牢屋に戻って来たのは未明の事で、睡眠もままならなかった。
「マダム、釜戸にブイヨンスープとパセリを取って置きました。貴女はまだ、持ちこたえる必要があります。何か、持って来させて下さりませ…」
懇願するロザリーに対し、女囚は軽くうなずいてみせる。
「では、ブイヨンスープを頂きましょう…」
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