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皇室一家は、春から秋に掛けて一年の大半をウィーンの中心より程近い、離宮シェーンブルン宮殿で過ごすのが慣例だった。
季節は今、まさに春の盛りの中にある。宮殿の庭園を埋め尽くす数々の花が、まるでアントニアの感性に訴え掛けるように色取り取りの美しい花を咲かせていた。
心の赴くまま、アントニアは庭園へと駆け出して嬉しそうに花々の中で戯れる。それがまた、絵に描いたように美しく、よく似合うのだ。
アントニアの無垢な可愛らしさと相まって、その姿はまるで妖精のような美しさだった。
季節を彩る花でさえ、アントニアを彩る装飾品の一つに過ぎないのかも知れない。
「まぁ、アントニア様!お部屋にいらっしゃらないと思ったら、このような場所に!?」
アントニア付きの世話係の一人が、慌てた様子で庭園へと飛び出して来た。
「だって、こんなにお花が綺麗に咲いているのです。わたくしは嬉しくて嬉しくて、つい…」
屈託のない笑顔でアントニアが言う。彼女の笑顔は、まさに天然極上の癒しそのものである。
アントニアは自由奔放に育てられたが故、時として世話係達を困らせる事があった。
だが、アントニアの仕草一つ一つがそんな世話係達の心を癒し、掴んで離さなかった。それは、彼女達の誰もがこの幼き皇女の為ならば、と思える程のものだったに違いない。
アントニアは、自然と周囲をそんな風に思わせる事の出来る魅力の持ち主なのである──
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