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神聖ローマ帝国皇室一家ハプスブルグ家、その皇帝たるフランツⅠ世シュテファンと女帝マリア=テレジアの夫婦は、当時の王宮貴族としては非常に珍しい恋愛結婚だった。
当然、夫婦仲も良好で子宝にも恵まれた。そんな皇室一家だからこそ、他国の宮廷に比べ子供達が分け隔てなく養育され、健やかに成長していたに違いない。
その神聖ローマ帝国第十一皇女にして、十五番目の子がマリア=アントニアなのである。
アントニアは、兄弟達の中でも特に奔放で闊達な少女に育つ。
夏の盛り、アントニアは毎日のように大好きな水浴びを楽しんでいた。彼女のこうした嗜好は、母マリア=テレジアによるところが大きい。
テレジアは、娘達に母として、女性として、心身ともに清潔である事の大切さを常々説いて来た。
そうしたテレジアもまた、水浴びを好み体を清潔に保っていた。彼女の本質が、高潔で尊いものだからであろう。
「アントニア様、そろそろ水浴びの時間は終わりにして頂きます」
家庭教師の一人、ブランディス伯爵夫人である。授業開始の時間をとっくに過ぎても、部屋に戻って来ないアントニアをわざわざ浴室まで迎えに来たのだ。
「さぁ、アントニア様…お勉強の時間で御座います。どうか、お部屋にお戻り下さりませ」
ブランディス伯爵夫人が、再度念を押す。すると、アントニアは何とも不機嫌そうに顔をしかめてみせた。
「──お勉強は、おもしろくありません…」
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