≪皇室ハプスブルグ家≫

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 こんな時、決まってアントニアの我が儘が顔をのぞかせる。勉強の時間と聞き及ぶと、彼女は決まって詰まらなそうにそっぽを向いてしまう。  皇室の王女と言っても、アントニアはまだ七歳と幼い。遊び盛りの少女らしく、頬を膨らませ拗ねるのだった。 「グルック先生の授業だったら、どんなに楽しい事か…」  ハープやチェンバロの楽器演奏を好み、得意としたアントニアにとって、自分の趣向にそぐわない習い事は退屈以外の何物でもなかった。グルックが担当する音楽の授業を引き合いに出し不平を口にしてみせる。  普段のアントニアは素直な少女だったが、父シュテファン譲りの性格は時に享楽的で快楽的なもののみを好む傾向にあった。特に考察を必要とする類の学問を嫌い、それらには一切手を付けようとはしない。  そうした一面が、アントニアの欠点であり、ブランディス伯爵夫人をはじめとする家庭教師全員が抱える共通の悩みでもあった。 「姫様!どうか、どうかお部屋にお戻り下さいませ」  ブランディス伯爵夫人による再度の呼び掛けにも、アントニアは全く応じる気配はない。騒然となる侍女達を余所に、アントニアはくすりとほほえむ。 「わたくしはまだ、水浴びがしたいのです」  そう言って、アントニアは突然ブランディス伯爵夫人に向かって水しぶきを弾き飛ばす。伯爵夫人の衣服が、忽ちずぶ濡れとなって行く。 「これで先生も、一緒に水浴びですわね!」
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