第零章

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 ――その日の夜遅く、ゼルタは王城に呼び出された。  城の裏口へと馬車を停め、門番の兵にのろのろと歩み寄ると、ゼルタは用件を告げた。 「キミ。女王陛下にお取次ぎ願えませんか?」 「あん? ……あ! あなたは!」  ひどくシンプルな物言いに顔を顰めた門番は、すぐに自分のとった態度を後悔した。  それは一際大きな聖帽を被り、門の松明の赤々とした光を映す真っ白な法衣を纏った老人だった。  威厳に満ちたその姿は、誰にでもすぐに何者かを知らしめる。 「す、枢機卿様! ええ! お供も付けず、お一人ですか! し、少々お待ち下さい! たたた、ただいま、すぐに!」  それは門番とて例外では無かった。彼は血相を変え、慌てて城内へと走り去った。  城内へと通されたゼルタは、長い長い、壁面に絵画が描かれた廊下を、衛兵に案内されヨタヨタと歩く。  長い螺旋階段を上り、また廊下を歩く。それを三回ほど繰り返して、華麗な装飾を施された重々しい扉の前に着くと、それをノックした。 「ゼルタでございます。女王陛下」 「うむ。入るがいい」 「では、失礼」  扉を開け、部屋に入ったゼルタは、人懐っこい笑顔を作り、うやうやしく礼をとった。 「お久しぶりでございます、女王陛下様。いやしかし、ここまで来るのは年寄りには骨が折れます」 「うむ。老けたな、ゼルタ。なんだ、その白く長いひげは。……全く、なにが女王陛下様だ。昔のように呼ぶがいい。相変わらず人を小ばかにしおって」  女王は大きなベッドのヘッドボードに、枕を背もたれに体を起こしていた。
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