第零章

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 広い室内の壁面には森の、天井には天使の絵が描かれた部屋は、明かりが付いておらず、月明かりだけが大きなアーチ型窓の形に部屋を照らしている。  だが、女王の顔にはその明かりが届いていないため、彼女の表情は読み取れない。 「フフ。それは無理なご注文ですよ。ただでさえ女王の寝室に外の男が入るなど、有り得ないことだというのに」 「フン。聖職者は例外だろう。まぁよい。ゼルタよ、ぬしを呼んだのは他でもない、わらわの葬儀について相談しようと思ってな」 「! ……弱気な事を。そんなことは知りません」 「はは……。ここのところ、ずっと昏睡しておったのだ。もうこんなに話せる時はあるまい。聞いてくれぬか、ゼルタよ」  ゼルタは唇を噛み締めたが、すぐに努めて明るい笑顔を作ると、少しでも女王陛下を力付けるべく、饒舌に語りだした。 「教皇猊下も明日、お見舞いに来られるはず。寂しい事を言わないで下さい……。  そうそう、ようやく頼まれていた史書”皇国立記”の編纂が終わりそうです。私は特に『天界の主神アトゥム』との和平交渉の記述に力を入れました。  和平路線で行くことに決まった時の、オズワルド君が議会に言った『圧倒的武力は交渉に用いて最良とす。行使するは下策なり』という言葉には、しびれましたからね」
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