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「そうか。ならば安心だ。……ゼルタ」
「はい」
「わらわは生まれてすぐに天界にさらわれ、女神とされた為に、親の顔も知らずに育った。これは不幸なことだと思う。戦いを運命に背負わされ、その為だけに作り出された女神。とても幸せになれそうもない境遇だ、今振り返れば……な」
「……そうですね。あなたの前に投下されてきた女神たちは、全て私とマーリンが葬ってきましたが……。幸せとは、縁遠い存在でした」
少し俯き加減に、ゼルタは声を落とした。
「だが、わらわは奇跡的に、今、人間として、その生を全うし終えようとしている。沢山の人達に笑顔をもらい、暖かな心に包まれているのが分かる。辛いことや悲しいことも沢山あったが……」
「……はい?」
「自分が幸せかどうかとは、死ぬ時になるまで分からないのだな。死ぬ時になって初めて、自分の人生が幸せなものだったかの結論が出せる」
「ふむ。して、アイリーン君。キミの人生の結論は、いかがなものでしたか?」
「フ。やっと昔のように呼んでくれたな」
小さく笑うアイリーン。
「……幸せだった……」
穏やかな声でそう言うと、アイリーンはそれきり言葉を発することは無かった。
「さようなら、アイリーン君……」
ゼルタはベッドのそばに歩み寄り、小刻みに震える手でアイリーンの頭を優しく撫でた。
「安らかに眠りなさい……。後はあなたとオズワルド君の子供が、ちゃんと受け継いでいきますからね……」
ゼルタは腰を上げ、窓辺に立つと青く輝く月を見上げた。
「皇国はすでに安定期に入り、人々はようやく訪れたこの平和を、心から喜んでいます……。神々と争う事もないならば、もはや私の生きている意味もありませんが……」
月の柔らかな明かりが、ゼルタの頬を流れるものに反射して煌いた。
「さて、行きますか。葬儀……か。大仕事ですが、もう一仕事……」
ゼルタはそう呟いて踵を返すと、月光を背に、ゆっくりと歩みだした。
――しかし不老不死の運命に縛られた『ネクロマンサー(死霊使い)』である彼を、運命はまだ許さない。
これより二千年後、彼にはまた、新しい物語が訪れるのだ。
『プリンセス・シールド』
まだ見ぬこの騎士団が、ゼルタの、アヴァロン皇国の命運を握ることになるのだ――。
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