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「あ、拓海だ」
「三咲か。何でいるんだ?」
俺が今居る場所は自分のクラスの教室。時刻はもう日が傾きかけている時間であり、普通の生徒ならこの時間に教室に用があるのは珍しい。
「別に単に忘れ物を取りにだよー。塾で使う参考書を忘れてさ」
「そっか」
「それより、拓海こそこんな時間に机に向かって何をしてるの?」
三咲の疑問に対し、俺は机に置いてある一枚の紙を三咲に渡した。
「これは……願書か。そかそか、まだ書けてなかったんだ」
そう、俺がこんな時間まで残っていたのは高校受験の願書を書くため。他の奴らはもう大体は書けている。なんで俺だけかと言うと、願書に書いた理由が流石にこれはダメだと指摘されたからだ。
「ふーん、理由が書けてないね」
「別に学力があれば入るだけなら理由は無くていいと思ってさ」
「おや、拓海はそんなに大口を叩ける程の学力がありましたかな?」
「実際はこの高校、ギリギリです」
俺が受けようとしている高校は私立だ。学力で言えば中の上ぐらい。大体の奴らが併願で受ける様なそんな高校。
でも、オレらの中学からそこを受けようって奴はまず居ない。同じ県にあるのはあるが、かなり遠く通うのに時間がかかるからだ。
「まぁ、適当に綺麗事を並べたらいいじゃん。こう、『私が志願した理由は校風が良く、学力面でも自分にあって―』とか」
「そうだよな。分かってるんだけどな……」
「けど?」
「なんか、自分に嘘ついてるようでさ。明確な理由なんて実際は何もないのに」
「また出たよ。拓海の癖『深く考える』別にいいじゃん、みんなそんなモンだよー」
「んー、うん」
「よし、拓海との仲だ!私が書いてあげよー」
三咲はそう言うと願書の理由の欄にスラスラと書いていく。
「はい、終了だよー」
「ありがとうございました、三咲様」
「ふふふ、くるしゅうーない」
しかし、短い時間でよくもまぁ、こんだけ綺麗事を並べられたものだ。見ると記入欄ギリギリまで理由が書かれていた。
「そういえば、三咲もこの学校受けるんだよな」
「そうだよー。まぁ、拓海とは違い本命は別だよー。あ、そうだ試験会場まで一緒に行こーよ。場所分からないんだ」
その言葉を聞き、俺は呆れた。普通、自分が受ける高校の場所ぐらい事前に調べないか?
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