二つ名

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それに真っ先に反応したのは香澄だった。 「その二つ名は許さない。朧に感情がないとでもっ!貴方になにが判…」 「いやー、感情制御ってのは一番苦労する技術さ」 私の言葉で香澄を遮る。軽く聞こえるように言えただろうか? そして、由宇が繋ぐ。 「あの日は夜襲される可能性が高くてね。守備隊も我々第181小隊しか居なくて、壊滅覚悟だったんだなぁ。敵は1個大隊って聞いてるし」 そう言いつつ、由宇は三島と臼井を見ながら話を続ける。 「斥候分隊が戻らない状況での夜襲は危険と判断するからな。敵も」 三島も臼井も状況が飲み込めてきた。 戦力の1/3喪失で部隊全滅扱いで、部隊壊滅は生存者を数えた方が早いレベル。 1個小隊で1個大隊を相手に防衛戦。無茶苦茶だ。 人数だけでも9倍は少なくとも離れているし、装備に至っては比べるのも馬鹿馬鹿しくなる程の差がある。 その無茶を通す為の可能性は、広大な砂漠の中で一本の針を探すより難しい。 斥候分隊の帰還は守備隊戦力の露呈と、守備隊の壊滅を意味する。 同じ状況を何とかして見せろと命令されたとしても、三島にも臼井にも何の対策も思い浮かびはしない。 絶対に還す訳にいかない敵だったのだ。 「すみません」 三島と臼井には謝るしかなかった。 「構わないさ。こうなる事が判ってた問題だ。必要に迫られれば感情を殺さなくてはならない。そういった現実を知ってもらいたかっただけだよ」 そう言って、私は背伸びをした。 香澄を見やると、三島と臼井を睨んだまま、視線を外そうとしない。
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