とある戦場

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…… 斥候が動く。 「始める…」 私の呟きを香澄は聞き届ける。 続いて指揮者が動く。 進行方向も進行速度も予測通り。 既に必要な計算は済んでいる。 タイミングを見計らい引き金を絞る。 バスッ 気の抜ける様な音を残しライフルが暴れる。 スコープの中を注視しながら即座にボルトを引き次弾を装填する。 指揮者の右ひざに血の花が咲き、倒れこんだ。 支援者は場慣れしているようで、すぐに家屋内に身を隠すが斥候はそうではなかった。 斥候は壁際を離れ指揮者に駆け寄ろうとし、支援者に怒鳴られ慌てて引き返す。 のんびりと見ている私でもなく、既に斥候に狙いをつけている。 息と心を殺し、引き金を再度絞り込むと、斥候は倒れた。 斥候は頭を打ち抜いたので即死だろう。 そう判断しながら、ボルトを引き次弾を装填する。 支援者は機関銃だけ突き出し、適当に弾をバラ撒いているが少しの間だけだった。 既に位置は分からなくとも狙撃手の存在は感づいている。 こうなると、膠着状態となるが、見てるだけでは作戦も進まない。 次の手を打つ必要がある。 「斥候ヘッドショット、指揮者重傷」 状況を香澄に告げる。 「了解、周囲警戒継続」 香澄も自分のすべき事は理解している。 そして、経験からこの状況で私の取るべき行動も…。 「これは戦争。気にしないでとは言わない」 香澄は悲しみの声を出す。 「分かってるよ」 私が静かに告げたこの言葉は自分に言い聞かせているのだろうか? それとも香澄を思いやっての言葉なのだろうか? 敵を殺す為に私は心を殺す…。
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