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「今から、少し記憶喪失になってくれない?」
そう言うと、由宇を見つめる。
由宇もあたしの視線に決意を見ると、頷いた。
「これを見て…」
そう言って差し出したのは先ほどの薬莢だ。
今は戦時…薬莢など珍しくも無い。
由宇は不思議な顔をするが、何も言わない。
「あの作戦から…なのよ。朧がこれを集めだしたのは」
由宇には訳がわからないという顔だ。
「朧は射殺した際の薬莢を持ち帰るようになった。あたしにも気づかれないようにね。部屋にも結構あった」
由宇の顔には驚きの表情がある。
「だから、か。あの時の、朧に感情がないとでもっ!ってのは」
そう言って悲しい目をする。
「後悔が無いなんて嘘。あのままだと朧の心が壊れると思って、この間の作戦の時、無理やり一つぶん取った」
そう言ってビールを飲む。
「今でも、それが正しいのか判らない」
そう呟く声は、自分の声なのに…
「前に、言ってたな。人は自分を信じる人が居れば戦える…っと、この事は忘れてくれ。こんなクサヤより臭い言葉をバラしたと判ったら朧に笑顔で殴り殺される」
「あの朧が?臭すぎでしょ」
そう言って由宇と二人笑った。
香澄のドアの前に一人立つ者が居たことには去った後も二人は気付かなかった。
こうして夜は更け飲み会は続いた。
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