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「どうした?三島君?」
そう問いかけると、三島は私を見る。
口を開こうとして、思いとどまるように口を噛み締め、迷いに迷っている。
「石井少尉は…狙撃手向きと…」
ようやく口を開くが、途中で止まる。
「続けな…」
そう言って、三島の肩を叩く。
そこからは、三島の悩みが濁流のように流れ出した。
「石井少尉は先ほど狙撃手向きと言いましたが、自分に務まるか不安です。
少尉程の覚悟は持てていません。私のミスで仲間が死ぬのを想像するだけで頭が真っ白になるし、考えが浅いことも昨日の件で思い知りました。
かといって観測手の能力は絶望的です。もう何を考えていいのやら…」
…まぁ、予想通りかな…昨日の件もあるし…
今の言葉は由宇と雑談している香澄にも届いていた。かといって許すつもりもなさそうだが…。
「さて、今の君の話を聞くと、専攻希望は狙撃手のようだね。
君はまだ訓練生で実戦経験もない。
で、私並みの覚悟を決め切れていないと…まぁ、意気込みは買うが、私を安く見ないで欲しいな。
この覚悟は、戦場を生き抜いてきた証なんだから。…香澄…気に食わないのは顔を見れば判るが、私の訓練生時代の感想を教えてやってくれ」
そう言うと香澄へ近づき、耳打ちする。
「昨日の件を気にしてるようだし、私は、この坊主がこのヘタレたちの中で一番狙撃手向きだと思ってるから頼む」
そういうと、香澄はついに諦めたようだ。
ため息一つ吐き出して三島に近づく。
三島は近づく香澄に驚きながら立ち上がり頭を下げる。
「昨日は済みませんでした。自分の浅い考えを棚に上げた上で批難までしてしまいました。
本当に申し訳ありませんでした」
それを聞き、香澄は再びため息を吐き自分の頭をグシャグシャ掻いた。
香澄は怒っていると怖いが、そんな中でも、真剣な謝罪は受け入れる。
それが良い所だと由宇は知っている。
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