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私は由宇に近づき、小声で会話する。
「由宇、昨日はすまなかった。香澄も真剣な謝罪には気持ちを切り替えるだろう」
「いや、構わんよ。お前さんにも無茶をさせている」
由宇は、前回の作戦の詳細について言っているのだろう。
…かわらんなぁ。お前さんは…その思いやりは私も良く知ってるさ…
しかし、私にそんな素直な言葉を吐くのは無理だ。
「クサヤより臭くて悪かったな」
由宇の顔が引きつる。
昨夜、私は香澄の部屋を訪ねたが、由宇と話しているようだった。
聞こえてくる話が私の事と判ると、入らずに引き返した。
…由宇に訓練生時代に付けられた評価は、天性の天邪鬼だったな…
そんな事を思い出しながら、「気にするな」と呟き笑った。
由宇もまた「天邪鬼」と呟き笑った。
香澄の話も終わったようで、こちらに歩いてくる。
「何を二人だけで和んでるの?あたしは説明で大変だったのに…」
そう言いはするものの、顔は笑っている。
「まぁ、そう言いなさんな。私より客観的に説明できると思ったからなぁ」
そう言い残して私は三島に向かい歩き出す。
「さて、私の訓練生時代がいかに能無しか理解できたな?で、もう一度先程の悩み事の続きを聞く必要があるか?」
そう言いながら、三島を見ると、表情が先程とは変わっていた。
「いえ、大丈夫です。安心しました」
憑き物が落ちたという表現が正しいのかは不明だが、悩みは解決できたようだ。
…しかし、安心したって…
とりあえず、義務として殴っとくべきか?
…言わせておいて何だが、私ってそんなに無能だったか?…
「ならいい。ここからは、誰にも言うなよ。俺には浅井少尉という優秀な観測手が居る。
狙撃手をするなら、背中を預けきれる観測手を見つけろ。
覚悟と腕を上げる一番の近道だ」
そう言うと、香澄と由宇の方へと歩き出した。
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