とある戦場

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香澄の無線を受けて由宇たち第181小隊は移動してきた。 第181小隊はここを拠点として確保する。 私と香澄は先程の3人の位置に移動する。 350mの移動は警戒しながらでも、それほど時間は必要としなかった。 「香澄、周囲警戒」 その言葉で、香澄はサブマシンガンを構えつつ、周りを索敵する。 香澄の索敵は信頼している。 私は3人の遺体を発見されない場所へと移動する。 周りの血は砂をかけて見えないようにして、壁の血は砂をこすり付けて消す。 一通りの作業が終わると香澄に声をかける。 「作業終了、部隊に…」 ここまでだった。声は擦れる。 状況を察した香澄が私を見るが、自分の感情には制御が効いていない。 言葉は続けられなかった。 「…一人で抱え込まなくていい…」 そんな私を見つめる香澄が声を掛けてくる。 「大丈夫だ。泣き事で済む問題じゃないから」 そう返す言葉は、最後まで言葉として出ていただろうか? 香澄が私を見続けるその目は悲しみに染まっている。 「…一つあたしにくれない?」 香澄が手を差し出す。 無言でいると、更に言葉を重ねる。 「あたしが気づいていないとでも?」 そう言うと、香澄は私の胸ポケットから薬莢を一つ取り出す。 自室に有るのを含め、今日で274個になった薬莢の内の一つだ。 「それは、私の…」 「勲章であるならば返すけど、あなたは違う考えよね。だから貰うの」 言葉を遮り、香澄は私を見続ける。決して逸らすことなく。 「…もう一度言うわ、貰うよ…あたしはパートナーだから…」 そう言い切ると、香澄は部隊の元へ歩き出した。 無言で私は歩き出す。
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