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…何か見つけたな…
言い難そうだが、言ってもらわないと進まないので言葉を重ねる。
「何を見つけた?」
そこまで言葉を重ねると観念したようで、口を開く。
擦れた言葉は聞き取り難い。
「…迫撃砲を準備中みたいよ」
…言い難いわけだ…
兵員輸送車を発見した奴が潰す気でいやがる…
「祝砲は要らない。迫撃砲弾の位置は判るか?」
「1時方向1600m先の木箱の上に1発見える。見えるけど、遠いわよ?」
…たはぁー。確かに遠い。
1600m先にある迫撃砲弾の頭の雷管に当てなければ爆発はしない。
あの祝砲は、間違いなく、由宇の指揮する空荷の兵員輸送車を狙う。
止める術は私のライフルのみ…。
「はぁ…限界に挑戦したら由宇は特別ボーナスくれるかなぁ…」
ぼやきながら、私はVT-10を構える。
今まで付き合いの長いこの銃に今以上の苦難を強要した事は無いだろう。
距離とコリオリ力を計算し、狙点を割り出す。
「香澄…風量と風向を…」
流石に声は擦れる上に震えている。
私も今までこんな狙撃は経験していない。
香澄も同様だが、香澄は持てる能力をフルに発揮し、私の期待に応える。
「風向7時方向から1時方向へ、風速は4…いや、3.5」
今までで、一番細かい指示だ。それだけに香澄の集中力も伺える。
風向と風量を計算して、狙点を微調整する。
これだけの距離と目標の大きさでは、いくら高倍率のスコープでも、目標を厳密に見る事はできない。
狙撃手に必要なのは感覚。
見えないがそこに目標があると感じる感覚。
勘と言ってもいい。
私には、そこにあると…感覚が、それの位置を指定した。
「了解…周囲警戒…始める…」
そう言いながら、引き金を絞る。
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