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「だってさ…朧聞こえた?」
「あぁ聞こえた。後は、安全圏到着の連絡を待って、兵員輸送車狙撃隊の撤退と同時に軽車両狙撃隊の撤退だな」
言ってはいるが、その軽車両狙撃隊に私と香澄はたぶん入れない。
集中砲火を食らってる状況で、車に乗り込もうと頭を上げれば、鉛のプレゼントが山程届けられるだろう。
「片瀬より浅井少尉へ、安全圏への離脱を完了」
無線が怒鳴る。
…ったく。怒鳴らんでも聞こえるっての…
「浅井より狙撃隊へ、撤退を開始せよ。殿はあたしと石井が受け持つ。以上」
香澄が無線の送信スイッチを切る。
「マシンガンをよこせ」
「ん?なんで?」
私の言葉に反論する香澄だ。
言いたい事は判っている様だが、とぼけてる。
…んな状況でもないだろうに…
「いいからよこせ!」
そう怒鳴った私を香澄は無表情で見る。
そして、無表情のまま、肩を蹴った。
「あ;skdjf;愛ウェhjr;ふじこ」
悲鳴は敵の銃撃音でかき消された。
「何考えてる!!!蹴るか普通!」
香澄の表情は無い。
更に蹴る。
もはや私に声は無い。
「て…めぇ」
苦労して出した声に、香澄は更に蹴る、蹴る、蹴る。
「ごめんなさいは?…」
そう言うと、更に蹴る、蹴る、蹴る。
「ごめんなさいは?…」
もう一度そう言うと、更に蹴る、蹴る、蹴る。
「…ごめんなさい…」
私の心が折れたのは痛みにか香澄の意地にか。
実際の所はよく分からない。
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