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「で、釘撃ち師の傷はどうなんだ?」
…ん?聞きなれない呼び方だな?…
「朧の事さ。訓練生の中で、釘撃ち師だとさ。
計算と勘で迫撃砲の雷管を打ち抜いたんだ。
釘だって弾丸で打てるだろう?奴らの中での二つ名は絶対聖域の釘撃ち師らしい。」
そう言って笑った。
そして、いつまでも笑ってばかりもいられない。
護衛部隊の手当てを横手に見ながら、私の傷の手当てをした後、3人は葛城少佐のもとへ報告に行った。
「片瀬中尉以下2名、作戦報告に来ました。」
そう言って入室すると、葛城さんはソファーに座っていた。
ソファー前のテーブルには血と泥に汚れたアタッシュケースが置いてある。
…気の抜けたビールみたいな顔してやがる…
「片瀬です。少佐どうしました?」
再度声を掛けると、ようやく、眼の焦点が合った葛城に正気が戻る。
「今回の作戦が成功してよかった…」
…命令したアンタが言うか?…
由宇と香澄も同じ顔をしている。
「少佐?…」
由宇が少佐?の後の言葉を飲み込んだのは、「頭大丈夫か?」だったのだろうか?
「良かった。良かった。」
…訳がわからん…
由宇よ飲み込んだ言葉を吐いてやれ…
「少佐?話が見えませんが?訓練生に死者や重傷者がいないのは良かったのですが、その意味ですか?」
…どんだけ人が良いんだ?…
由宇がここまで言うと、自分が脈絡の無い事を言っていたと気付いた葛城は、言葉を重ねる。
「いや、先ほど知った事だが本来は、こういったものを君たちに見せるのは必要も無く、そして問題だが、見なかったことにしてくれ。
いずれ内容はわかるが、少なくとも今は見なかったことに」
そう前置きしてから、アタッシュケースを指差す。
前置きから判断すると、今回の原因とも言える、装甲輸送車の中身か。
由宇が手を伸ばそうとすると、葛城はそれを制する。
「いや、やはり見せるのは止めよう」
…どっちなんだよ!…
戦闘の後で、気が立っているのは、私だけではない。
由宇も香澄も同じくイライラした表情をしている。
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