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しとしとと、雨が傘を叩いている。どこかから茶色く濁った水が流れて来て、音を立てて下水管へ落ちていく。遠くで鳴っているのは踏切の音。
昨日の夜の賑やかな嵐の痕跡はあるのに、変に静かな朝だった。
――そういえば、
あの日もこんな朝だった。
数年前のあの日、この少し先にある橋から濁った流れを見た時、僕はそれを見た。最初はただ、白と黒の塊があるなと思ったのだ。それから、声が漏れる。
「人が…、倒れてる?」
橋を駆け渡り、土手を半分滑りながら、降りる。白と黒の塊は同年代の少年だ。彼には嫌な位見覚えが、ある。同じ制服を着た彼はうつ伏せで顔は見えない。
嫌な予感を打ち消すために、顔を見ようと思った。恐る恐る濡れた髪を掴み、横向きにする。
「……っ!?」
ドキリとする。見覚えがありすぎる顔は紫の唇をしていて、妙に白っぽくて……思わずその、頬に触れると冷たかった。
僕は携帯を取り出した。
何か、しなければ。
震える手で、119番をした。
「はっ、はっ、はっ」
目の前が暗くなり、気が付くと、僕は橋の真ん中で座り込んでいた。
彼は死んでいた。自殺か他殺か、はたまた事故なのか……遺言めいたものがあったからと言う理由だけで、警察は自殺と断定していた。不自然な所は何も無い溺死体という話だった。
――本当に?
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