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「…おい、千秋?」
「…ごめんなさい。…あたし…また…やっちゃったんだね…。
なんでかな…あの娘も、あたしなのに…言うこと、聞いてくれない…。」
千秋は、泣いていた…。
いつもなら、余韻に浸って、俺に体を預けてきたり、笑顔で、話し掛けて来るのに…。
あの娘…千秋の中にいる、もう一人の千秋…。
千秋は、結婚する前、このことを、すごく気にしていた…。そのせいで、結婚を先延ばしにすることに、なりかけていたんだ…。
愛情を相手に注ぎたいし、相手からも、注いでもらいたい、体だけでなく、心でも、感じたいと、願う千秋は、俺といることで、それを叶えてる…。
精神状態だって、今は、すごく落ち着いてるし…。
「どうして…。あの娘が出てくるの?
…もう、いやだ…。あたしの邪魔しないでよ…。」
もう一人の千秋は、千秋が、心も体も満たされてる状態では、出てこないはずなんだけどなぁ…。
昔、血の繋がらない兄貴…匠に恋をして、越えちゃいけない一線を、越えてしまった、千秋…。
一緒に暮らしていた数年間に、男を喜ばすための色んなことを、匠に、教え込まれたらしいんだが、千秋は、それを、俺に使うのをすごく嫌がる…。
理由は、もう一人の自分が、目を覚ますからだって、前に言ってた…。
心から愛した兄貴には、妹としては、それなりに、可愛がってはもらったけれど、恋人として、愛してもらった覚えがないと…。
自分は兄貴のおもちゃでしかないと、気付いた時に、もう一人の千秋が、生まれたらしい…。
それ以来…体を求められると、千秋の心を守ろうと、心が、もう一人の千秋に入れ代わる…みたいなことが、頻繁にあったようだ…。
…俺が、はっきりそうだと、わかったのは、一昨年の秋、一度きりだ。
そうか…。
俺は、あの日と、今日の共通点を見つけた。
椅子の上で、二人で…。
はぁ…このシュチは、封印だな…。
あんまり、千秋の泣き顔は、見たくないからな…。
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