春を待つ季節

15/19
前へ
/173ページ
次へ
「…おい、千秋?」 「…ごめんなさい。…あたし…また…やっちゃったんだね…。 なんでかな…あの娘も、あたしなのに…言うこと、聞いてくれない…。」 千秋は、泣いていた…。 いつもなら、余韻に浸って、俺に体を預けてきたり、笑顔で、話し掛けて来るのに…。 あの娘…千秋の中にいる、もう一人の千秋…。 千秋は、結婚する前、このことを、すごく気にしていた…。そのせいで、結婚を先延ばしにすることに、なりかけていたんだ…。 愛情を相手に注ぎたいし、相手からも、注いでもらいたい、体だけでなく、心でも、感じたいと、願う千秋は、俺といることで、それを叶えてる…。 精神状態だって、今は、すごく落ち着いてるし…。 「どうして…。あの娘が出てくるの? …もう、いやだ…。あたしの邪魔しないでよ…。」 もう一人の千秋は、千秋が、心も体も満たされてる状態では、出てこないはずなんだけどなぁ…。 昔、血の繋がらない兄貴…匠に恋をして、越えちゃいけない一線を、越えてしまった、千秋…。 一緒に暮らしていた数年間に、男を喜ばすための色んなことを、匠に、教え込まれたらしいんだが、千秋は、それを、俺に使うのをすごく嫌がる…。 理由は、もう一人の自分が、目を覚ますからだって、前に言ってた…。 心から愛した兄貴には、妹としては、それなりに、可愛がってはもらったけれど、恋人として、愛してもらった覚えがないと…。 自分は兄貴のおもちゃでしかないと、気付いた時に、もう一人の千秋が、生まれたらしい…。 それ以来…体を求められると、千秋の心を守ろうと、心が、もう一人の千秋に入れ代わる…みたいなことが、頻繁にあったようだ…。 …俺が、はっきりそうだと、わかったのは、一昨年の秋、一度きりだ。 そうか…。 俺は、あの日と、今日の共通点を見つけた。 椅子の上で、二人で…。 はぁ…このシュチは、封印だな…。 あんまり、千秋の泣き顔は、見たくないからな…。
/173ページ

最初のコメントを投稿しよう!

638人が本棚に入れています
本棚に追加