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「梓さん…。」
田所夫妻が、欲しくて欲しくて仕方がないもの…決して、手に入れられないもの…血の繋がった二人の本当の子供…。
「もう!…忘れたんですか?あたしと彰は、梓さんの子供だって、言ったじゃないですか。」
「…そうだったわね。」
「ほら、昴ちゃんだっているし。ねっ!昴ちゃん。」
「…は、はい!…私でよければ。」
「ありがとう…二人とも。私は、あなたたちみたいな、いい娘達と、知り合えて幸せ者ね。
今は、この幸せを独り占めしましょう。
家に帰ったら、田所に、自慢してやるわ。」
梓の顔に、笑顔が戻って、千秋は、ホッとする。
…あたしと彰に、もし、子供が出来なかったら…こんな風に、哀しいのかな…。
唐突に、一人の女性の顔が、浮かんだ…。
鈴音さん…。
梓さんとは、立場が違うけど、彼女も…子供、欲しいんだろうな…。
あの時…彰の子供が欲しい、産みたいって、言ってきた時、どんな気持ちだったんだろう…。
まだまだ、夢や希望で、あふれている、あたしには、わかるようで、わからない奥深い気持ちだ…。
何年かして、もし、子供がいなかったら、少しは、わかるだろうか…鈴音さんの気持ちが…。
その後、バレンタイン用のチョコの材料を買って、前日に、家で、3人で、作ることになった。
「うふ。この歳になって、若い女の子と、バレンタインチョコを作ることになるなんて、思わなかったわ。楽しみだわ♪」
梓さんの笑顔に、あたしの心は、晴れていった。
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