春を待つ季節

10/19
前へ
/173ページ
次へ
「…そっとよ、そーっと。ばれちゃうからね。」 「郁美ちゃん…本当にいいのかな…勝手に入っちゃって…。」 「大丈夫、大丈夫。…速水さん、こういうのは、笑って許してくれる人だから。」 そーっと、扉を開けて、一気に、ワッと、驚かそうとしていたのだけれど…。 まさか、扉が、内側から開くなんて思ってなかったので、 「きゃっ!」 「わっ!」 驚いて、声をあげてしまったのは、二人の方だった。 一斉に、4人分の視線が、突き刺さる。 「早苗?!何やってんだよ?」 「郁美…家で待ってんじゃなかったの?」 「あはっ。…その…なによ…そう!いつも、お世話になってる速水さんに、お礼しようと…。ね、郁美ちゃん?」 「…そ、そうよ。ね、早苗ちゃん。」 「嘘くせぇ…。」 「二人とも、きょどってるよ。」 亀山と和樹の白い目に、固まる二人…。 「なんでも、いいじゃない。はい、入って、入って。 中で、適当にくつろいでて。お茶の用意して来るから待っててね。」 千秋に、言われて、怖ず怖ずと、中に入る。 速水の側に行くと、郁美が 「あの、速水さん、いつもお世話になってるので、お礼しよう思って。 早苗ちゃんと、二人で、作ったんです。甘いの好きですよね?確か。」 「…甘ったる過ぎるのは、勘弁だけどな。」 「これ、貰ってください。亀山君のこと…これからも、よろしくお願いします。」 真っ赤になりながら、頭を下げる早苗に、亀山の方が、恐縮してしまうし、照れ臭い。 速水の顔をちらっと見ると、ニッっと、笑う。 「…任せとけ、悪いようにはしないって。 この坊主どもは、大事な内の戦力だからな。 有り難く貰っとくよ、そいつは。」 郁美も早苗も、ホッとしたらしく、緊張が解ける。 「…ところで、お嬢さん方、君らの彼氏君達の目は、訴えてるよ。自分のは、ないのかっ?てね。」 「…ごめん、和樹。後回しになっちゃって。 はい、和樹の好きなオレンジピール使って、チョコ作ってみたの。食べてね。」 「本当に?ありがとう。」 「…よ、洋祐。これ、甘すぎないように、気をつけて作ったから。」 「…今、名前で呼び捨て!ヤッタ~ァ!」
/173ページ

最初のコメントを投稿しよう!

638人が本棚に入れています
本棚に追加